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一章 「涙のわけは?」

Author: 桃口 優
last update Huling Na-update: 2025-05-30 05:40:49

 次の日の朝。

 起きるとすぐに、僕は彼女にメッセージを送った。

「昨日はだいぶ酔っていたけど、二日酔いは辛かったりしない?」

 昨日の夜からずっとあの言葉が、映像が、僕の頭を様々な方向からがんがんと叩いてくるから。

 時間が経っても、彼女が涙を流している顔が、僕の脳内で鮮明に繰り返し映し出される。

 それほどまでに昨日の出来事は、僕の心に何かを訴えてきて、痛いぐらいに残っていて消えない。

 これが、普通じゃないことはわかった。

 でも、結局無難な言葉を送ることしか僕はできなかった。

 情けないなと思った。

 なぜなら僕は彼女の心配よりも、自分のある感情を優先しているのだから。

 僕はよく友達から「優しい」と言ってもらえることが多い。純粋に僕のことをそんな風に思ってくれるのはありがたいことだ。

 もちろん、心配や気遣いする気持ちに嘘偽りはない。

 僕は今彼女を心配している。理由は、単純だけど一番大切な人だから。

 でも、この話をしても男友達からは共感があまり得られないから、僕のこの考え方は男性の間では少し変わっているのかもしれない。

 誰が正しいかなんて決められないと僕は思っているから、僕の価値観を誰かに押し付けることはしたくないと思っている。

 よく言えば、僕は「一途」と言えるだろう。現に僕は彼女との付き合いは長いし、その間に他の女性に心が少しでもうわついたことは一度もない。

 僕の行動を上辺で見るとどこもおかしくないはすだ。

 ただ、僕の場合は、少し特殊な問題が関係しているのだ。

 僕が誰かを心配したり気遣いをするには、ある感情が関係している。

 僕は相手の感情が急にわからなくなることが怖いのだ。

 人は突然怒り出すことも、悲しむこともある。

 それはわかっているものの予想外の出来事は、僕にとって『恐怖』なのだ。

 突然感情が変わる理由がわからないし、それに僕はすぐについていくこともできない。

 相手を思う気持ちは嘘じゃないけど、僕は僕のために行動しているとも言える。

 こんな自分本位の行動を、「素晴らしい」とは到底言えないだろう。

 そこで、考えるのをやめた。

 僕には、深く考えすぎる癖がある。

 彼女からすぐに返事が返ってきた。

「うん。大丈夫。もしかして、昨日家まで送ってくれたの?」

 とりあえず、僕は返事が返ってきたことにホッとした。

 彼女があのまま命を絶つ可能性も0ではなかったから。

 もちろん、自ら死を選ぶことはいいと言えない。一方で、命は人によって一瞬で軽いものに変わってしまう時もあることを僕は知っている。

 その人が今どれぐらい辛いかなんて、他人には簡単には理解できないのだから。

 そう考えると、昨日の僕の対応は本当に正しかったのだろうかと疑問に思えてきた。

「そうだけど、あの、昨日のことは何か覚えてる?」

 僕はあの涙のわけを、それとなく聞いてみた。

「全く覚えてない」

 それが何かはわからないけど、僕はその返事に違和感を感じた。

 彼女の返事は、僕の言葉を受けて急に変わったように思えた。

 いつもの彼女なら、もっと僕のことを気遣って色々な言葉をかけてくれるはずだ。

 彼女は、僕なんかよりずっと気を使える人だから。

 だから彼女が昨日の発言について、本当に記憶にないことは確かだろう。

 涙も流しさらにいつもは言わないことを言ったのだから、覚えていたら何かの反応を示すはずだから。

 僕は少し考えた後で、「そっか。少しいつもより酔っていたけど、特に何か変わったところはなかったよ。二日酔いがなくて安心した」と送った。

 それから僕は会社に行く準備をし始めた。

 僕の朝は、カップスープを飲むことから始まる。なんだか落ち着くし、もはやルーティンのようになってきている。

 それから鏡で、ゆっくりとパーマがかかった髪を眺める。

 髪の色は、彼女と同じで黒色だ。

 同じなのに、どうしてこんなに違うのだろうか。

 確かにただ髪の色が同じだけで、他に似ているところは少ない。でも鏡を見る度に、いつも彼女との埋められない差を感じてしまう。

 僕は取引先の人と直接顔を合わせる営業職ではなく、事務職だ。会社自体も自由な社風でこのような髪型でも「気にしない」と面接の時に言ってもらえている。

 実際うるさく嫌味を言ってくる人は今のところいない。

 特徴がないのも、時としてコンプレックスになる。

 目は一重で頼りなさを表すように細く垂れていて、鼻もきれいに整ってはいない。身長や体重も、男性の平均値とほぼ同じだ。

 筋トレなどはがっちりしていないけど、体重キープだけはいつも意識してる。

 でも、細マッチョというにはひ弱すぎる。

 ただおしゃれは好きで、クロゼットにはたくさんの服がかけられている。

 今のトレンドはいつもチェックしている。 

 たくさん服を買う男の人は珍しいかもしれないけど、他の男の人と同じである必要性をあまり感じてはいない。

 準備をさっと済ませて家を出た。

 会社に向かう電車の中でも、どうしてか彼女の涙と発言が気になって仕方がなかった。

 基本的に物事に執着しない僕にしたら、本当に珍しいことだ。

 でも、同時に深く聞いていいのだろうかとも思った。

 僕は過去に起きたあることのために、『涙』には慎重になるのだ。

 あの時の僕は、涙を受け止めることができなかった。

 同じ過ちは、繰り返したくはなかった。もうあんなに、心をぐちゃぐちゃにされるのは嫌だった。

 でも情報が少なすぎて、理由は見当もつかなかった。

 彼女は昨日『こんな人生もう嫌だ』と『死んでしまいたい』と言っていた。

 それらの言葉は、かなりの重さがあった。

 僕は、『言葉』には重さがあると思っている。

 彼女の美しい涙とそれらの言葉の重みは、本来なら交わるものではない。でも、昨日はそれが交わった。

 それが意味しているのことは一体なんだろう。

 わからないことだらけだけど、僕はその時確かに彼女を救いたいと思った。

 『救う』なんて大それたことを僕なんかができるかわからない。それこそ、それは彼女のような人間ができることだろう。

 でも、今強くそうしたいと心が訴えかけてきた。

 僕は、その日暇があればずっとうまく聞く方法を考えていた。

 でも、この日はいいアイデアは浮かばなかったのだった。

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